最後は、現代アート。
一見見ただだけでは、「何のことやらさっぱりわからない作品」というのが
選定基準の一つでした。
「黒い四角の中の模様は何の形だと思いますか?」
「素材は何だと思いますか?」「この中には何が入っているでしょうか?」
などファシリテーターの問いと対話を重ねながら、
再びじっくり観察し、作品への理解を深めていきます。
「よくわからない作品。でも、この形がスティックシュガーみたい」と
理解しがたい作品への戸惑いと同時に、分からないなりにも、
どうにかして理解しようと努めている姿勢を感じる発言がありました。
「数を数えてみたんだけど、どっちも30ずつあった。
この一致や数に意味があるのかなぁ」
という発言をしたのは、経理職の女性。職業柄でしょうか、
まずは数値で理解しようとする姿勢が見て取れます。
鉛の中に埋め込まれた「種」と「水」と「空気」というヒントを得て、
「あ。命が育つための必要なものが揃っている!」という発言が飛び出し、
皆がハッとした表情をすると、
「これはチェルノブイリの後に創られた作品です」と情報提供が追加されます。
その後「それらを金属の中に閉じ込めている作品ですが、どんな意図があるのでしょうね」
「これ以上汚染されないよう、きれいな空気や水を閉じ込めている?
既に汚染されたものを閉じ込めるため?」
と、さらに理解を深めるための問い掛けがあり、それぞれに、感じていることを語っていきます。
詳細は避けますが、この作品への解釈は、ネガティブ派とポジティブ派とに分かれる傾向がありました。同じ作品を見ても、解釈が両極端に分かれることもあるのですね。
ちなみに、この選定基準を設定した狙いは
「相互理解が困難な他者を理解するためのコミュニケーション」。
職場復帰師後の子育て女性は、職場では圧倒的に少数派です。
そして「育児家事は妻に任せきり&長時間労働当たり前」が常識だった時代を生きてきた
団塊世代や管理職男性などにとっては、まだまだ理解しがたい存在。
今でも、長時間労働が常態化している企業では、時間的制約がある子育て中の女性は
「使いにくい」と語られがちな世の中。
出産・育児を経て、生活の優先順位が変化し、異なる価値観を抱くようになることは
少しも不思議ではないのですが、そのような価値観や優先順位を持ちながら、母親が
働き続けることには、まだまだ困難が伴います。
ただ、少ないとはいえ、職場がダイバーシティー化し始め、
異なる常識が混在するという、新しい状況に戸惑いながら、試行錯誤が続いています。
過渡期だからこそ、
「子育てをしていない人とは、全く理解し合えない、どうせわかってもらえない」と
コミュニケーションを断絶し、離職したり、職場で孤立してしまっては、もったいない。
「言わずとも察してほしい」日本人魂は、お互いにぐっとこらえて置かれた状況を言葉にすることで
お互いの常識を見直しながら、程よい着地点を模索する努力をすることも必要な時代。
相手の話に耳を傾け、「全く理解しがたい相手」同士と良好な関係を築くべく、交渉していく姿勢を持ちたいところですよね。
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- 「仕事と育児の両立を目指すママのための鑑賞会(1)国立近代美術館」
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